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しっぽが書いたものもの。
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早く早く。

早く大人になりたいと思った。

見上げなくても済むように。

しゃがんで貰わなくても良いように。

 

早く早く、並んで一緒に景色が見たい。

横顔をそっと見つめて、目が合って照れたりしたい。

 

早く、今すぐにでも。

 

そう思っていたのに…。

 

魎呼お姉ちゃんがお姉様の手を弾いて、お姉様のりんご飴を落とした時、

天地兄ちゃんは目を吊り上げて魎呼お姉ちゃんを叱ったけど、違うんだよ。

私は知ってる。

魎呼お姉ちゃんは天地兄ちゃんと手を繋ぎたかったの。

お姉様も天地兄ちゃんと手を繋ぎたかったの。

それで、お姉様はそっと天地兄ちゃんの手に触れようとしていたの。

大胆だなと私は思った。

お祭りって何だか賑やかで、その中では皆何でも許される気がして、きっと少し特別な事がしたくなるんだ。

 

魎呼お姉ちゃんは、その様子を後ろから見て居たんだと思う。

新しい浴衣を着て、うきうきしていた魎呼お姉ちゃんは、でも不器用で照れ屋な人だから、天地兄ちゃんと並んでお祭りを楽しむなんて大胆な事出来なかったんだ。

浴衣姿の天地兄ちゃんの背中を見ながら後ろから付いて行く事しか出来なかったんだ。

そして、見てしまった。お姉様が手を繋ごうとしている事。そうして、きっと天地兄ちゃんもそれを受け入れてしまうところ。

 

天地兄ちゃんは気付いてなかったのかな。

「魎呼、いい加減にしろ」とお兄ちゃんが怒った時の、魎呼お姉ちゃんの酷く傷付いた瞳に。凍りつくような眼差しに。

気付いてないとすれば、天地兄ちゃんは酷い人。酷いくらい鈍感な人。

お姉様はずるい人で、天地兄ちゃんは酷い人。

そして私は―――――。

 

花火を見た時だった。

恥ずかしいからいいって私が言ったのに、天地兄ちゃんは「見えないだろうから」と言って、私を抱き上げてくれた。

その腕の体温と天地お兄ちゃんとの顔の近さにドキドキした。

でも、本当にドキドキしたのはその後。

「暗くて足元が危ないから」って天地兄ちゃんは自然と私の手を取ってくれた。

先刻、お姉様が繋ごうとした手。

魎呼お姉ちゃんが繋げなかった手。

それを私は簡単に繋いでしまった。天地兄ちゃんに繋いで貰った。

抱きあげられる事も、手を繋ぐ事も、こんなに簡単に私は出来てしまう。

ごめんね、魎呼お姉ちゃん。あんなに傷付いた瞳をしていたのに、私は笑顔の天地兄ちゃんに見つめられ、いとも簡単に天地兄ちゃんの心を掴んでしまいました。

ごめんね、私もお姉様と同じ様にずるい人間。

ううん、きっと私の方がお姉様よりもずっとずっとずるくて醜い心を持っている。

 

「また来年もお祭り来ようね」

と天地兄ちゃんは私に笑いかけた。

うん!と頷いて私は思う。

天地兄ちゃん、来年もその次も一緒に来よう。

来年もその次も、私はこのままがいい。

酷く残酷な醜い子どものまま、貴方の心を私は繋ぎ止めて生きたいの。

 

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