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しっぽが書いたものもの。
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風が頬を撫でる。

縁側で庭先を見ながらかき氷を食べていると、隣りに座った魎呼が一口寄こせとせっついて来る。先刻あげたのにまた一口くれと言い、冷蔵庫に行けと言えばお前が食べているのが美味そうだと言い募る。

大体、魎呼は我儘だ。先日の夏祭りの時だって、俺が阿重霞さんとりんご飴を食べていたら突然現れて、阿重霞さんが食べていたりんご飴を地面に落とす様な真似をするし、その事を攻めれば、あれは阿重霞も悪いと眉間に皺を刻んで怒る。俺から言わせれば、あれはどう見ても魎呼が悪かった。阿重霞さんが魎呼の浴衣に餡を付けようとした事は知らないけれど、魎呼から先に阿重霞さんに喧嘩を売ったのだから。

 

「だからさあ、お前はどうして…」

 

俺が説教を始めれば、ぶうっと膨れっ面をし、どうしていつも自分ばかりを叱るのかと機嫌を損ねる。俺としてはそんなつもりはない。何方一方を贔屓などしていないはずだ。

けれどもそれでも魎呼は瞳をギラリと光らせて、自分ばかりが叱られて面白くないと横顔で俺を睨む。

 

「…分かったよ、今度からは一緒に叱るよ。でも、魎呼が一歩引いてくれれば阿重霞さんだって魎呼と喧嘩しようとは思わないんじゃないか」

「何であたしが一歩引かなきゃなんねぇんだよ」

「え…」

「あいつが引けば良いだろう」

 

皇女様の阿重霞さんが引く訳がない。あの人は、ああ見えて頑固で負けず嫌いだ。頑固で負けず嫌いなのは魎呼もそうだけれど、阿重霞さんの方が頑なだと俺は思う。

魎呼はそのまま不貞腐れた様子で庭先を睨んでいる。

ああ。どうしたら彼女達は喧嘩を止めるのだろう。喧嘩を全くするなとは言わない。それが理想だけれど、彼女達の性格上それは無理だと思う。それならばせめて、派手な喧嘩は止めて口喧嘩程度のものにして貰いたい。被害が最小限のものに。

 

大きな溜め息が出る。ほとほと困った俺は魎呼に尋ねる。

 

「…阿重霞さんの事、嫌いか?」

「嫌いじゃない」

「じゃあ…さ、」

「嫌いじゃないけど好きじゃない」

 

好きじゃないのは知っているけれど…それでも、もう何年も一緒に暮らして居るのだから、それなりに折り合いがつけられるのではないだろうか。

魎呼は地面を睨んでいたけれど、その瞳はもっと遠く、別の場所を見据えている様にも見えた。何をそんなに怯えているんだろう。睨みつけているものの、その瞳には不安そうな色が浮かんでいた。こんなに近くに、隣に居るのに、何に怯え、何を恐怖に感じているんだろう。

 

「かき氷やるから、機嫌直してくれよ」

 

ガキじゃねぇんだぞと魎呼が膨れるかと思ったが、魎呼は何も言わず俺の手からかき氷を受け取った。素直なその様子に俺が驚いていると、目を伏せレモン色の溶けかかった氷をじっと見つめた。その真剣な眼差しと少しだけ悲しみを帯びた表情に何だか胸が痛くなった。こんな顔の魎呼は厭だ。魎呼に笑って貰いたい。魎呼にこんな表情は似合わない。

 

「そうだ、今度コンビニに行ったら魎呼の好きなかき氷も買ってやるよ。何が良い?」

 

魎呼に気分を変えて貰いたくて、俺はそんな事を訊いた。

魎呼は顔を上げるとおずおずと言った。

 

「……天地も一緒に買いに行ってくれるのか?」

「うん、良いよ」

「あたしも一緒に行って良い?」

「良いけど…」

 

何でそんな事を尋ねるのだろう。俺が魎呼の好きな味を選んで買って来るのでは不満なのかな。

俺がそんな事を考えていると、魎呼が瞳を輝かせた。

 

「じゃあ、デートだな、コンビニデート」

 

夏の陽射しにも負けない程、キラキラとした瞳で見つめられ、正直俺は慌てた。

そんなに嬉しいのか。俺とコンビニ行くだけで?

それだけでこんなに眩しい程の顔を向けて来る魎呼が少しだけ愛おしい。

 

「コンビニデートって…」

「だって、そうだろ?ふふ、楽しみだぜ、天地ぃ。あ、どうせなら毎日行くか?」

「毎日行って、かき氷買うのか?」

「そう。今のコンビニは色んな味のアイスとかかき氷置いてあるってこの間テレビで言ってたぜ」

「…そんなに食べたら腹壊すよ」

「デートのためならそんなの平気だよ」

 

ふふふと魎呼が世にも嬉しそうな顔をする。

全く、仕方がない奴だなと俺が言うと、良いじゃんかと幸せそうに咲った。

 

本当、俺も大概甘いなあと思う。

きっと明日にはコンビニへ行こうと魎呼は俺の腕を取るだろう。

そして俺は何だかんだ言っても魎呼と一緒にコンビニへ行ってしまうのだ。

その笑顔に負けて。

魎呼にはこの顔が一番似合うと思うから。

 

俺を嗤うかの様に、チリリンと風に乗って風鈴が揺れた。

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